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- 2023.05.08お役立ち情報
- ICF(国際生活機能分類)とは?その目的と機能について事例を交えて解説
1、ICFとは
ICF(国際生活機能分類)とは、 人間のあらゆる健康状態に関係した生活機能状態から、その人を取り巻く社会制度や社会資源までをアルファベットと数字を組み合わせた方式で分類し、表現しようとしたものです。
このICFは、世界保健機関(WHO)において、1980年に国際疾病分類(ICD)の補助として発表されました。
その後、機能障害と社会的不利に関する分類であるWHO国際障害分類(ICIDH)の改訂版として、2001年5月に行われた世界保健機関の総会において採択されました。
この改定により、WHO国際障害分類(ICIDH)がマイナスな側面のみに注目した障害の分類という考え方であったのに対し、ICF(国際生活機能分類)は、 生活機能というプラスの側面からも注目するように視点を転換し、さらに環境因子の観点が加わったことが特徴です。
※ICFは、International Classification of Functioning, Disability and Healthの略です。
2、ICFの目的
ICFは次のような目的で活用され、相互に関連しています。
- 健康状況と健康関連状況、結果、決定因子を理解し、研究するための科学的基盤の提供
- 健康状況と健康関連状況とを表現するための共通言語を確立し、それによって障害のある人々を含む、保健医療従事者、研究者、政策立案者、一般市民などのさまざまな利用者間のコミュニケーションを改善すること
- 各国、各種の専門保健分野、各種サービス、時期などの違いを超えたデータの比較
- 健康情報システムに用いられる体系的コード化用分類リストの提供
(引用)厚生労働省 「国際生活機能分類ー国際障害分類改訂版ー」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
ICFの目的を一言でいえば、「生きることの全体像」を示す「共通言語」 です。
ここでいう共通言語とは、共通のものの見方・捉え方です。
生きることの全体像を示す「生活機能モデル」を共通の考え方として、さまざまな専門分野や異なった立場の人々の間の共通理解に役立つことを目指しています。
3、ICFの生活機能モデル
ICFは、「生活機能」(心身機能・構造、活動、参加)の分類と、それ影響する「背景因子」(環境因子、個人因子)の分類で構成されています。これに「健康状態」(病気、けが等)を加えたものが生活機能モデルです。
それぞれの構成要素について、説明しますので、生活機能モデルの図と併せて確認してみましょう。
参考:厚生労働省 ICF(国際生活機能分類)ー「生きることの全体像」についての「共通言語」ー https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ksqi-att/2r9852000002kswh.pdf
図の矢印に注目してください。「健康状態」「生活機能」「背景因子」の要素は相互に作用しています。
そのため、このような生活機能モデルで「生きることの全体像」を捉えることが重要です。
生活機能
生活機能は「心身機能・身体構造」(生命レベル)、「活動」(生活レベル)、「参加」(人生レベル)の3つに分けて考えます。
この3つの要素も相互に作用しています。
・心身機能・身体構造(生命レベル)
心身機能とは、手足の動きや精神の働き、視覚や聴覚、内臓の働きといった身体系の生理的機能であり、心理的機能も含みます。
身体構造とは、心臓の一部といった器官、手足の一部といった肢体とその構成部分など、身体の解剖学的部分です。
≪具体例≫
- 右片麻痺
- 認知機能の低下(軽度)
- 外出することが億劫になっている
・活動(生活レベル)
活動とは、課題や行為の個人による遂行のことです。
例えば、入浴や排せつ、食事や移動などの生活行為、調理や掃除などの家事行為、職業上の行為、趣味やスポーツなどの余暇活動に必要な行為、趣味、社会生活上必要な行為などです。
また活動を、している活動とできる活動の2つに分けて捉えます。
≪具体例≫
- 外出する際は、車いすを使用している
- 見守りがあれば、杖を使って10mの歩行ができる
・参加(人生レベル)
参加とは、生活・人生場面へのかかわりのことです。
例えば、スポーツに参加する、地域組織の中で役割を果たす、文化的・政治的・宗教的などの集まりに参加する、親としての家庭内での役割、働くこと、職場での役割などです。
≪例≫
- デイサービスでは、レクリエーションに参加している
- 脳梗塞を発症してからは、囲碁クラブには、通わなくなった
(2)背景因子
背景因子は「環境因子」と「個人因子」 の2つにわけて考えます。
・環境因子
環境因子とは、人々が生活し、人生を送っている物的な環境や社会的環境、人々の社会的な態度による環境を構成する因子のことです。
環境因子には、次の2つの異なるレベルに分けて整理されます。
- 個人的レベル
家庭や職場、学校などの場面を含む個人にとって身近な環境、人が直接接触するような物的・物質的な環境や家族、知人、仲間、よく知らない人など他社との直接的な接触を含みます。
- 社会的レベル
就労環境、地域活動、政府機関、コミュニケーションと交通のサービス、非公式な社会ネットワーク、法律、規程、規則、人々の態度、イデオロギーなどに関連する組織やサービスを含みます。
≪具体例≫
- 半年前に家をバリアフリー化した
- デイサービスを利用している
- 息子家族が近所に住んでいて、援助を受けることができる
・個人因子
個人因子とは、個人の人生や生活の特別な背景であり、健康状態や健康状況以外のその人の特徴からなります。
例えば、性別、人種、年齢、体力、ライフスタイル、習慣、生育歴、困難への対処方法、社会的背景、教育歴、職業、過去および現在の経験、全体的な行動様式、性格、個人の心理的資質、その他の特質などです。
≪具体例≫
- 83歳、男性。妻(75歳)と二人暮らし
- 40年間、料理人として、妻と一緒に定食屋を営んでいた
- 趣味は囲碁
(3)健康状態
健康状態とは、病気や変調、傷害や外傷などの包括的用語です。
ストレス、妊娠、加齢、先天性異常、遺伝的素質などを含みます。
≪具体例≫
- 1年前に脳梗塞を発症。
- 高血圧症
参考:厚生労働省「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載についてhttps://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
参考:厚生労働省 ICF(国際生活機能分類) -「生きることの全体像」についての「共通言語」- https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ksqi-att/2r9852000002kswh.pdf
ICIDHとICFの違い
ICIDHとICFの違い
ICIDHはICFが採択される約20年前の1980年にWHOが発表したもので、「International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps」の略です。
日本語に訳すとICIDHは「国際障害分類」となり、障がいだけに着目しているのがわかります。しかし、「障がいの捉え方がマイナス面のみに注目している」ことや、「障がいが社会的に不利になる」といった一方的な視点から問題視されるようになりました。
ICIDHからICFに採択された理由を下記で詳しくご紹介します。
ICIDH:WHO国際障害分類(1980)の障害構造モデル
(引用)障害保健福祉研究情報システム 国際障害分類(ICIDH)から国際生活機能分類(ICF)へー改訂の経過・趣旨・内容・特徴ー https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n251/n251_01-01.html
ICH:国際生活機能分類(2001)の生活機能構造モデル
(引用)障害保健福祉研究情報システム 国際障害分類(ICIDH)から国際生活機能分類(ICF)へー改訂の経過・趣旨・内容・特徴ー https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n251/n251_01-01.html
上記の表からもわかるように、ICIDHとICFの異なる特徴は3つあります。
- マイナス面だけを強調したものから中立的な表現へ
ICIDHの疾患・変調をICFでは健康状態へ、同じく機能・形態障害を心身機能・身体構造へ、能力障害を活動へ、社会的不利を参加へと変更しています。
ICFにおいてマイナス面を示す場合には、心身機能と身体構造の制限、活動の制限、参加の制限と表現します。
- 影響を表す矢印が一方的から相互へ
ICIDHでは、疾患・変調から機能・形態障害へ、さらに能力障害と社会的不利へと、単線でした。
しかし、ICFでは、それぞれが相互に影響し合うように表現されています。
これは、ICIDHの一方的な表現では、障害のあることが不可避で運命的に表現されてしまい、社会的要因が障害を増強させる面を見逃しがちになるからです。
- 背景因子として、環境因子と個人因子が追加
背景因子に環境因子と個人因子が追加された理由は、社会文化的な要因や心理的な要因は、健康状態を規定する要素として外せないからです。
ICFの活用方法
介護や福祉、医療の現場では、利用者の生活状態やQOL(生活の質)を向上させるためにICFを活用することができます。
以下では、ICFを活用した例を3つ紹介します。
- 2週間で肺炎と心不全は完治したが、その間に廃用症候群が進み寝たきりとなり、退院後は閉じこもりになってしまった
この場合、「健康状態」にあたる肺炎と心不全という診断とその治療のみに注視しています。
そこでICT※1を活用し考えてみると、治療している間に進行すると考えられる廃用症候群(心身機能・身体構造)、それによる寝たきり(活動にあたるADL※2自立度が低下した状態)、その結果生じかねない退院後の閉じこもり(参加の制約)を理解できるため、予防につなげていくことができます。
※1.ICTとは、インターネットなどを経由して人と人とをつなぐ役割を果たす、デジタル化された情報の通信技術のことです。
※2.ADLとは、日常生活動作とも言われ、日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作のことで、食事や排泄、入浴や移動、更衣や整容などを指します。
- 努力しても全介助が必要な状態に留まってしまい、その結果閉じこもりがちになってしまった
この場合、何らかの環境因子が原因となり、利用者のADLの低下(活動制限)や、社会生活上の不自由(参加制約)が生じていることが考えられます。
そこでICTを活用し、社会・環境に介入することで、社会・環境を利用者に適応させ、QOLを向上させる方法もあることに気付くことができます。
具体的には、同じ全介助にとどまったとしても、介護保険などの社会資源を活用し、デイケア・デイサービスなどを利用(参加)することで、四季を感じたり利用者同士で言葉を交わせたりする生活につなげていくことができます。
- リハビリにおいて、障害のマイナス面を減らすのではなく、個性や能力などのプラス面を伸ばすことによってマイナス面を補ったり克服したりする
具体的には、歩行ができない場合には、できるように訓練を行いますが(心身機能・身体構造)、歩行ができなくても車椅子を使用して(環境因子)移動する、左手で文字を書く練習をすることで(環境因子)、活動の制限を回復させることができます。
また、玄関前にスロープを設置したり(環境因子)、車椅子で運転ができる車を練習することで(環境因子)、本人の積極的な姿勢があれば(個人因子)、会社や買い物に出かけることができるようになり、参加の制約を克服することにつながります。
参考文献:荘村明彦(2012).『人体の構造と機能及び疾病』.中央法規出版.
参考文献:近藤克則(2017).『医療・福祉マネジメント』.ミネルヴァ書房.
4、まとめ
ICFの目的は、その人の生きることの全体像を正しく理解することです。
ICFを活用し、生活機能に影響を与える因子やそれぞれの因果関係を正しく理解することにより、利用者にあった介護計画を立てることができるようになります。
その結果、利用者のQOLの向上を目指すことができます。
介護職に従事する方、特に介護福祉士やケアマネジャーを目指す方にとっては、欠かすことのできない知識です。
ICFの基本的な考え方は、介護職員初任者研修で、ICFを活用した介護計画の作成については、介護福祉士実務者研修でそれぞれ学ぶことができます。
また、ICFについては、介護福祉士国家試験にも出題されています。(以下は第33回試験より抜粋)考え方について、しっかり理解しておきましょう。
【障害の理解】
問題87.
ICF(International Classifcation of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)の社会モデルに基づく障害のとらえ方に関する記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 個人の問題としてとらえる。
2 病気・外傷から直接的に生じる。
3 さまざまな環境との相互作用によって生じる。
4 治療してできるだけ回復させることを目的とする。
5 医療などによる援助を必要とする。
解答:3
(第33回試験より抜粋)
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さて、試験問題の解答は分かりましたか?ICFの考え方をしっかりと理解することが、試験突破には必要です。
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